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京都地方裁判所 平成7年(ワ)759号 判決 1997年5月08日

東京都新宿区西新宿二丁目四番一号

原告

住友不動産株式会社

右代表者代表取締役

高島準司

東京都中央区京橋一丁目一〇番二号

原告

住友不動産販売株式会社

右代表者代表取締役

中澤道明

原告ら訴訟代理人弁護士

山分榮

島田耕一

京都市中京区東洞院通竹屋町下ル

竹屋町法曹ビル四〇一号

中京法律事務所

被告

破産者住友開発株式会社破産管財人

前田進

京都市右京区西院平町二〇番地

(登記簿上の本店所在地)

京都市東山区大和大路通四条下る四丁目小松町五七二番地

(送達場所)

京都市東山区清水一丁目二八八番地の一

被告

株式会社住友ハウジング

右代表者代表取締役

木村ひさ子

右訴訟代理人弁護士

松本俊正

松本裕子

主文

一  被告株式会社住友ハウジングは、不動産売買・賃貸、その仲介斡旋、不動産の管理及び土木建築の設計・施工の営業上の施設又は活動に「株式会社住友ハウジング」その他の「住友」という文字を含む商号又は標章を使用してはならない。

二  被告株式会社住友ハウジングは、別紙物件目録一記載の物件の「住友ビル」及び同目録一、二記載の各物件の「株式会社住友ハウジング」の表示をそれぞれ抹消せよ。

三  被告株式会社住友ハウジングは、京都地方法務局受付の同被告の登記のうち「株式会社住友ハウジング」の商号の抹消登記手続をせよ。

四  原告らの被告破産者住友開発株式会社破産管財人前田進に対する請求を棄却する。

五  訴訟費用は、原告らに生じた費用の二分の一と被告株式会社住友ハウジングに生じた費用を同被告の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告破産者住友開発株式会社破産管財人前田進に生じた費用の二分の一を原告らの負担とし、被告破産者住友開発株式会社破産管財人前田進に生じたその余の費用を同被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

1  主文一ないし三項と同旨

2  被告破産者住友開発株式会社破産管財人前田進は、京都地方法務局受付の破産者住友開発株式会社の登記のうち「住友開発株式会社」の商号の抹消登記手続をせよ。

第二  事案の概要

一  事案の要旨

本件は、いわゆる「住友グループ」に属する会社である原告らが、同グループに属さない被告株式会社住友ハウジング(以下「被告住友ハウジング」という)及び破産者住友開発株式会社(以下「住友開発」といい、両社を総称する場合は「被告両社」という)が「住友」の名を冠した原告らの商号と類似の商号を使用し、また被告住友ハウジングが「住友」の標章を使用することが、不正競争行為に該当するとして、被告住友開発破産管財人前田進(以下「被告管財人」という)に対し、住友開発の登記のうち商号の抹消登記手続を、被告住友ハウジングに対し、「株式会社住友ハウジング」その他の「住友」という文字を含む商号又は標章の使用禁止、別紙物件目録一、二記載の各物件になされた「住友ビル」等の表示の抹消及び同被告の登記のうち商号の抹消登記手続を、それぞれ求めた事案である。

二  争いのない事実等

以下の事実は、当事者間に争いのない事実並びに文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定した事実である。

1  原告らの沿革及び営業等

(一) 原告住友不動産株式会社

(1) 原告住友不動産株式会社(以下「原告住友不動産」という)は、旧株式会社住友本社(以下「旧住友本社」という)が戦後の財閥解体により解散することになったため、旧住友本社を継承する会社として昭和二四年一二月一日、商号を「泉不動産株式会社」として設立され、昭和三二年五月、商号を現在の商号に変更した。原告住友不動産は、旧住友本社の事業中、不動産事業を受け継ぎ、主な業務内容としてビルの開発・賃貸、マンション・戸建住宅の開発・分譲、宅地の造成・分譲、海外不動産の開発、不動産の売買・仲介・鑑定、工事の設計・監理・請負等を営み、現在、肩書地に本店を有する(甲一の1、甲六、甲一三)。

原告住友不動産の株式は、昭和四五年一〇月、東京・大阪証券取引所市場第二部に上場され、昭和四六年八月には、同市場第一部銘柄に指定された(甲一三、甲一五の1~4)。また設立当初の資本金は二〇〇〇万円であったが、同三四年に一億円に、同四一年に約一二億円に、同四七年に三〇億円に、同五九年に約八七億円に、同六〇年に約一六八億円に増資され、現在(平成七年三月三一日現在)は約八六八億円である(甲一の1、甲一三)。

(2) 原告住友不動産は、首都圏はもちろん、近畿圏においても大阪支社(昭和三九年四月に大阪出張所が昇格した大阪支店が、昭和四八年に大阪支社に昇格した)がほぼ全域にわたって諸事業を展開しているほか、札幌、福岡、仙台、名古屋に支店を、横浜に事務所を有し、これらの各支店等を中心に広く営業活動を展開している。京都においては、昭和五一年一〇月に現在の京都住友ビルを竣工させ、同ビルには株式会社住友銀行が支店を有している(甲六、甲一三)。

また、系列会社として、原告住友不動産販売株式会社のほか、住友不動産建物サービス株式会社(昭和四八年七月設立)、住友不動産システムコンストラクション株式会社(昭和五五年八月設立)、住友不動産ホーム株式会社(昭和五七年二月設立)、住友不動産緑化株式会社(昭和五七年一一月設立)、住友不動産フィットネス株式会社(昭和六一年九月設立)等が存し、「住友グループ」の中の「住友不動産グループ」を形成している(甲六、甲一三)。

さらに、原告住友不動産は、昭和三八年に香港に現地法人を設立して以来、バンコク(同四四年)、ロサンゼルス、ハワイ(同四七年)、ニューヨーク(同五九年)、シドニー(同六三年)にそれぞれ現地法人を設立している(甲六、甲一三)。

(二) 原告住友不動産販売株式会社

(1) 原告住友不動産販売株式会社(以下「原告住友不動産販売」という)は、昭和五〇年三月一日、商号を「泉住宅販売株式会社」として、原告住友不動産が開発したマンション・戸建住宅・宅地等の販売会社として設立され、設立直後の同年七月四日、商号を現在の商号に変更した。主に不動産の仲介斡旋を業務内容とし、現在、肩書地に本店を有し、資本金(平成七年四月三日現在)は一二億円である(甲一の2、甲六、甲一三)。

(2) 原告住友不動産販売は、「住友」の信用を背景に直営ネットワークによる積極的な店舗展開を行い、首都圏、近畿圏、中部圏、中国圏、北海道、東北、九州とほぼ国内全域に支店又は営業センターを有し、京都においては、京都営業センター、京都西営業センター、京都北営業センター、京都南営業センター等を有する(甲六)。

(三) 住友系譜会社は、いわゆる「住友グループ」を形成して事業活動を行い、「住友」をその商号に冠し、「住友」の標章を商号の略称あるいはサービスマークとして使用している。「住友グループ」に属する会社は、株式会社住友銀行、住友信託銀行株式会社、住友商事株式会社等多数存在し、原告らもこの「住友グループ」に属する会社であり、例えば、原告住友不動産販売は、「住友の仲介」とその看板等に表示している(甲一一、甲一三、甲一四、検甲二四の2)。

(四) 原告住友不動産は、昭和四〇年、東京都新宿区の「住友地所株式会社」に対し、商号の使用の差止等を求める訴訟を東京地方裁判所に提起して、同四一年に勝訴判決を得、さらに、原告らは、昭和五九年、「住友ハウジング」の商号を使用する千葉県松戸市の会社に対し、商号の使用の差止等を求める訴訟を千葉地方裁判所に提起して、同年に勝訴判決を得た(甲一一、一二)。

2  被告両社の沿革等

(一) 住友開発は、昭和五一年四月一日、商号を「株式会社三越住販」、目的を土地・建物の測量設計及び調査、土木・建築・設計施工、不動産の賃貸・管理・売買・斡旋等として設立され、同日京都地方法務局において設立登記を経由し、その後、同五四年一一月一〇日、商号を現商号に変更した。資本金は現在(平成七年一月三一日現在)四〇〇〇万円で、設立当初から代表取締役は同社の全株式を保有する梅野泰紀(以下「梅野」という)であり、本店事務所を別紙物件目録一記載の建物(以下「本件ビル」という)内に有して、主として建売住宅の建築・販売の業務を営んでいたところ、平成八年七月二日、京都地方裁判所において破産宣告を受け、破産管財人として、被告管財人が選任された。なお、住友開発は、大阪市及び福岡市に支店を有していたが、同各支店ではほとんど営業は行っていなかった(甲二、乙一~三、丙一、証人晦野-二、三頁)。

(二) 被告住友ハウジングは、昭和五「年一一月三〇日、商号を現商号、目的を土木建築の請負、土地建物の設計・測量及び分譲、不動産の売買・仲介・賃貸・管理等として設立され、同日、京都地方法務局において設立登記を経由した。同被告の代表取締役木村ひさ子は、住友開発の代表取締役梅野の妻である。被告住友ハウジングの登記簿上の本店所在地には、社屋ないし営業施設は存せず、本社事務所を、本件ビル内に設置し、建売住宅の建築・販売を主な業務内容としている(甲三、証人梅野-五、六頁)。

3  被告両社の商号等の使用

住友開発は、破産宣告を受ける前は、被告住友ハウジング所有の本件ビルの前面道路より見て右端に「住友開発株式会社」と表示した袖看板を掲示していた(甲五の1、検甲一の2、3)。

被告住友ハウジングは、本件ビルの前面頂に「住友ビル」の看板を掲示し、また、同ビルの前面道路より見て右端に、「株式会社住友ハウジング」と表示した袖看板を掲示している(検甲一の1~3)。また、被告住友ハウジングは、同被告代表者木村ひさ子所有の別紙物件目録二記載の建物の前面道路側の鉄柱を支柱にした縦看板に「株式会社住友ハウジング」と表示し、また同建物の側面には、「株式会社住友ハウジング」と記載した営業用の木製看板を設置している(甲五の2、検甲二の1~3)。さらに被告住友ハウジングは、その商号を用いた宣伝用パンフレットを作成し(乙九~一六)、新聞広告等を掲載している(甲四の1、2、乙二四~二九)。

4  本訴訟前の原告らから被告両社に対する商号等の使用中止の通告

原告らは、被告両社に対し、昭和六一年九月二二日到達の書面によって、「住友」の名称を用いた広告及び原告らの商号の使用を中止するよう通告したが(甲七の1、2)、被告両社は、原告らに対し、これに応じかねる旨の回答をした(甲八)。さらに、原告住友不動産は、被告両社に対し、平成六年三月五日到達の書面により、営業上の施設又は活動に「住友」を含む標章等を使用することの中止、商号の抹消登記手続等をするよう通告したが(甲九の1、2、甲一〇の1、2)、被告両社は、やはりこれに応じなかった。

5  住友開発の営業活動の停止と看板の撤去

前記2(一)のとおり、住友開発は、本件訴えが提起された(平成七年四月一日)後である平成八年七月二日、破産宣告を受けて営業活動を停止し、また、被告管財人は、宅地建物取引業法に基づく廃業等届出書(丙一)を建設大臣及び京都府知事宛に提出し、さらに本件第一三回口頭弁論期日(平成九年三月一三日)までに前記3の「住友開発株式会社」の袖看板を撤去した(検丙一)。

三  争点及び当事者の主張

1  「住友」を冠した原告らの商号及び「住友」の標章の周知性・著名性(争点1)について

(一) 原告ら

(1) 「住友グループ」に属する会社は、いずれも我が国における指導的役割を果たしているが、この中にあって、原告住友不動産は、不動産部門を代表する会社として、当該事業分野において第一流の地位を占めるとともに、その商号は国内にとどまらず、広く海外にまで知られ、絶大な信用を博している。

前記第二1(一)(2)のとおり、原告住友不動産は、近畿全域において諸事業を行っているほか、国内のほぼ全域にわたって営業活動を展開しており、また、多数の系列会社を有して「住友不動産グループ」を形成している。

また、原告らを含む住友系譜会社は、その商号に共通の文字である「住友」を冠し、かつ、共通のサービスマークである「住友」を使用して、取引上、格段の名声と信用を築き上げてきたのであり、「住友」のサービスマークは、世に周知され、かつ、著名な団体標章である。

(2) 原告住友不動産は、昭和二四年一二月、京都市四条通河原町所在の京都住友ビルを旧住友本社から継承し、賃貸ビルとして運営してきたもので、逐次同ビルに増築、建替え工事を施し、現在のビルは、昭和五一年に竣工されたものである。同ビルは、京都中心部の繁華街における一つの名所、シンボルとして、「住友ビル」として周知され、親しまれてきている。なお、住友系譜会社として、住友銀行、住友信託銀行など各社の営業施設は、戦前から京都府下に存し、「住友」なる標章・サービスマークは、京都府下にあってもよく周知されている。また、原告住友不動産は、「堀川丸太町シテイハウス」「京都上京ハウス」「アクシルコート京都二条」等の、マンションの開発・分譲・賃貸など幾多の実績を挙げ、原告住友不動産販売は、「京都営業センター」「京都西営業センター」等の営業所を有している。このように原告らは、京都府下においても、営業上の施設を有し、営業活動を行っている。

(3) 以上のとおり、原告らの商号及び「住友」の標章は、全国的に周知され、著名であるとともに、京都府下においても周知され、著名である。

(二) 被告ら

原告らの主張事実は、いずれも知らない。

2  原告らの商号と被告両社の商号の類似性(争点2)について

(一) 原告ら

被告両社の商号と原告らの商号を対比すると、「住友」なる要部を同じくし、被告両社の商号の「開発」あるいは「ハウジング」と原告らの商号の「不動産」あるいは「不動産販売」の部分が違うにすぎず、「開発」及び「ハウジング」は、いずれも不動産事業の範疇に入るから、被告両社の各商号と原告らの各商号は明らかに類似している。

(二) 被告ら

被告両社の「住友」の名称は、一般顧客らが自社に親しみをもってくれ業務内容も分かりやすいようにと「住まいの友」という趣旨から「住友」の名称を冠したものであり、原告らが属する「住友グループ」の名称とは全く関係のない動機・理由から付された独自の名称である。したがって、被告両社の各商号と原告らの各商号との間に類似性はない。

3  被告両社の商号等の使用による原告らの営業との混同のおそれの有無(争点3)について

(一) 原告ら

(1) 住友系譜会社ではない被告両社が、原告らの商号と類似のものを使用し、「住友」なるサービスマークを使用する場合、住友系譜会社の一員又はこれと密接な関係にあるかの如き外観を呈し、原告らの営業上の施設又は活動と誤認混同を生ぜしめることは明らかである。

(2) 被告管財人は、住友開発は、破産手続中で営業しないことなどから、混同のおそれがないと主張するが、「住友開発株式会社」という商号を使用する以上は、原告らの営業と混同するおそれがある。

(二) 被告ら

前記2(二)のとおり、被告両社の商号は独自のものであり、また、被告両社は、それぞれ自社を表すマークを使用し、または使用していたところ、それは「住友」グループを表すマークとは一見して異なるものである。また、被告両社は、昭和五〇年ころから現在まで約二〇年の長きにわたり、もっぱら京都府下において「住友」の名を冠した商号等を使用して営業活動を行い、実績と信用を得ている。さらに、被告両社は、原告らからの通知によって初めて原告らの存在を知ったのであるが、原告らから通知のあった昭和六一年ころには、被告両社の名称は、京都府下で既に広く周知されていた。したがって、被告両社がその商号等を使用することによって、原告らの営業と混同するおそれはない。

(三) 被告管財人

(1) 住友開発は、破産宣告後、営業活動を全くしていないし、将来営業をすることもない。

(2) 住友開発は、不動産を所有しているが、同社の不動産の換価はその不動産の処分に限られ、いずれの不動産にもその価格以上の抵当権が設定されており、いずれ競売される状態である。仮に任意売却できたとしても、それは残余財産の処分であり、営業として行うものではない。

(3) また、住友開発は、社屋も明け渡し、前記第二、二5のとおり、本件ビルから「住友開発株式会社」の看板や表示を撤去し、同社名の広告もしていない。電話もすべて売却したので、新たな電話帳に同社名の広告がされることもない。

(4) さらに、住友開発は、平成八年七月二九日、宅地建物取引業法に基づき、同業の廃業届けを建設大臣に提出している。

(5) 以上のとおり、住友開発は、原告と同種の営業をしていないし、将来することもないので、原告と被告との間には競業関係はなく、また、不動産の処分も被告住友開発破産管財人の名の下に行うものであるから、有名企業である原告らの営業と誤認混同されるおそれはない。

4  原告らの営業上の利益を侵害されるおそれの有無(差止の必要性)(争点4)について

(一) 原告ら

前記3(一)のとおり、被告両社の商号の使用により原告らの営業等との混同のおそれが認められ、被告両社はその商号等の使用により原告らその他住友系譜会社の経済的利益を害する危険を生ぜしめていることは明らかである。

(二) 被告管財人

前記3(三)(1)ないし(4)のとおり、原告らは、住友開発の破産宣告後、あるいはおそくとも現在、住友開発の商号の使用により営業上の利益の侵害を受けていないし、将来侵害を受けるおそれもない。

5  原告らの差止請求は権利の濫用に該当するか(争点5)

(一) 被告ら

仮に、被告両社の商号・標章の使用が不正競争行為に該当するとしても、原告らは被告両社からの回答(甲八)の後、約八年もの間何らの措置も取らなかった。被告両社としては、右回答により、原告らの誤解は、解消されたものと信じて、その後も平穏に営業活動を継続してきたのである。今般の突然の原告らの請求は著しく信義に反するものであり、原告らの請求権は長年の不行使により既に消滅しているし、そうでないとしても権利の濫用である。

(二) 被告管財人

住友開発の債務は、公租公課約六五〇〇万円、一般破産債権六一五億円で約一一〇億円は共同債権買取機構等いわゆる住専関係の債権である。それに対し、現有破産財団は約一〇〇〇万円余で公租公課の支払いも完済できない状態である。

住友開発は、平成八年七月二日破産宣告以来、被告管財人がその職名で破産事務を処理しているが、その商号の使用を差し止められると、新たな商号が定められるまで、破産管財事務は中止のやむなきに至り、その変更にもとづく諸手続に要する費用も必要となる。これによる損害を受けるのは破産債権者である。

他方、原告らは、現時点において、本件差止請求が認められないとしても、その損害はほとんど皆無である。原告らは、いわゆる住友グループに属する大会社であるが、同グループの会社が倒産し破産宣告を受ける等とは誰も考えるはずもない。破産財団の管理及び処分は、被告管財人の名で行い、単に「住友開発株式会社」の名を使用することはないので、原告らと被告管財人と混同を生じるおそれはない。以上からすれば、原告らの本件差止請求は権利の濫用として認められない。

(三) 原告ら

被告両社の商号の使用を知って放置したからといって、直ちに黙示的に使用を許諾したとはいえないし、差止請求が権利の濫用となるものではない。また、類似の商号を使用することに自ら非がある者が、相手方の非を咎めてその権利の行使を権利の濫用と主張することは「クリーンハンズの原則」からも許されない。

第三  当裁判所の判断

一  「住友」を冠した商号及び「住友」の標章の周知性又は著名性(争点1)について

1  住友系譜会社あるいは住友グループは、戦後の財閥解体前のいわゆる住友財閥に由来するものであり、住友財閥が最も有力かつ有名な財閥の一つであったことは公知の事実であるところ、前記第二、二1の各事実及び証拠(甲六、甲一一~一三、弁論の全趣旨)を総合すると、住友グループに属する会社がその商号に冠し、あるいはサービスマークとして使用してきた標章である「住友」は、財閥解体に際し旧住友本社の継承会社として設立された原告住友不動産が現在の商号に変更した昭和三〇年代には、住友グループに属する会社の商号の略称ないしはサービスマークとして全国的に広く周知されていたものと推認できる。また、原告住友不動産は、「住友」を商号に冠した住友グループに属する会社であり、旧住友本社の事業のうち不動産事業を継承したことから、商号を現在の商号に変更して間もなく、その商号が全国的に周知され、京都府下においても周知されていたものと推認できる。さらに、原告住友不動産販売についても同様に、「住友」を商号に冠した住友グループに属する会社であり、かつ、同社が右に述べたように既に全国的に周知されていた原告住友不動産の開発した宅地等の販売のために設立され、設立直後に変更された現在の商号は「住友不動産」に「販売」を付したものであることなどから、現在の商号に変更した後間もなく、少なくとも、原告住友不動産の営業が特に活発であったと考えられる首都圏及び近畿圏においては周知され、京都においても周知されたものと推認できる。

右認定に反する証人梅野の証言は採用できない。

2  なお、原告らは、「住友」を冠した商号及び「住友」のサービスマークのの著名性も主張し、不正競争防止法(平成六年法律第一一六号による改正後の同法)二条一項一号の他、同項二号も原告らの差止請求の根拠とする趣旨であるとも考えられるが、被告両社の商号等の使用は、同法の施行日(平成六年五月一日)以前から継続していることが明らかであるから、仮に右著名性が認められるとしても、原告らの差止請求を認めるためには、同法附則三条一号により、結局、被告両社の行為が同法二条一項一号に該当することを要することとなる。したがって、以下、被告両社の行為が同法二条一項一号の不正競争行為に該当するか否かについて検討する。

二  原告らの商号と被告住友ハウジング及び住友開発の商号の類似性(争点2)について

1  まず、原告らの商号「住友不動産株式会社」及び「住友不動産販売株式会社」と被告住友ハウジングの商号「株式会社住友ハウジング」とを対比すると、両者の違うところは、原告らの商号の「不動産」又は「不動産販売」と同被告の商号の「ハウジング」の部分だけにすぎず(「株式会社」の部分は会社の種類を表示するにすぎずその位置の先後は類似性の判断にとってほとんど意味をもたない)、これらは観念において類似しているから、原告らの商号と被告住友ハウジングの商号は、全体からみて明らかに類似している。

2  次に、原告らの商号と、住友開発の商号「住友開発株式会社」を対比すると、1と同様に、両者の違うところは、原告らの商号の「不動産」又は「不動産販売」と住友開発の商号の「開発」の部分だけにすぎず、これらは観念において類似しているから、原告らの商号と住友開発の商号が全体から見て類似していることも明らかである。

三  被告両社の商号等の使用による原告らの営業との混同のおそれの有無(争点3)について

1  原告住友不動産は、ビルの開発・賃貸、マンション・戸建住宅の開発・分譲等を、原告住友不動産販売は原告住友不動産が開発した戸建住宅等の販売等を主な業務内容としているところ、原告らが住友グループの中の住友不動産グループを形成していることは前述のとおりであるので、住友グループに属さない被告住友ハウジングが、その目的とする不動産売買・賃貸、その仲介斡旋、不動産の管理及び土木建築の設計・施行の営業上の施設又は活動に、前記第二、二3のとおり「住友」を冠した原告らの商号と類似の商号を使用し、また住友グループの標章である「住友」と同一のものを使用する場合、顧客をして、被告住友ハウジングの営業上の施設又は活動を原告らもしくは住友グループに属する会社の営業上の施設又は活動と混同させるおそれがあるものといわざるを得ない。

証人梅野は、被告住友ハウジングが、住友系譜会社と混同されることはなかった旨の証言をするが、十分な根拠を有するものとはいえず、たやすく採用できない。かえつて、同人は、被告住友ハウジングは、住友銀行と取引をしたことはないと証言しているにもかかわらず、同被告の宣伝用パンフレット(乙九)には主要取引銀行として住友銀行が一番最初に記載されており、このような記載も混同のおそれを高めるものといわなければならない。

2  次に、住友開発についてみるに、同社が破産宣告を受ける前は、本件ビルに「住友開発株式会社」の看板を掲示し、その商号を使用して戸建住宅の建築・販売等の業務を行っていたことは前記第二、二3のとおりであり、このように住友開発が「住友」を冠した商号を使用し、「住友」の標章を使用して営業活動を展開していた当時は、住友開発の営業上の施設又は活動と原告らあるいは住友グループに属する会社の営業上の施設又は活動と混同されるおそれがあったといわざるを得ないことは、被告住友ハウジングについて述べたところと同様である。

しかしながら、住友開発は、現在、破産宣告により営業活動を行うことができない状態にあり(破産法六、七条)、また既に宅地建物取引業法に基づく廃業等届出書を提出していること、別紙物件目録記載の物件の「住友開発株式会社」の袖看板は既に撤去されていること、住友開発の電話加入権も既に処分され新たな電話帳に住友開発の電話番号が掲載されることもないこと(丙二)、住友開発の破産財団には福島県、新潟県、京都府、広島県、宮崎県の不動産が存するが、これらの不動産はそのほとんどに評価額を大きく超える被担保債権を有する根抵当権が設定されており(丙一)、強制競売となる蓋然性が高く、仮に任意売却となるとしても、破産財団の処分として行われるもので営業としてなされるものではないことなどを総合すると、住友開発の商業登記に「住友開発株式会社」の商号が存在すること、あるいは、「破産者住友開発株式会社破産管財人」の名の下に、破産財団に属する不動産等が処分されることをもって、原告らあるいは住友グループに属する会社の営業活動と混同されるおそれがあるとまでいうことはできない。

また住友開発が、再度、その商号を使用して営業活動を再開する可能性について考えてみたとしても、破産財団の状況(丙二)に照らすと、法定の手続(破産法三一一条、三四八条)によって会社が継続されて営業が再開される具体的可能性もないといわざるを得ない。

3  被告住友ハウジングは、自社を表すマークを使用しているところ、これは「住友」グループを表すいわゆる井桁マークと一見して異なること、同被告の「住友」の名称は、原告らの属する住友グループの「住友」とは関係のない動機、理由から冠された独自のものであり、原告らの商号等と混同を生じるおそれはないと主張している。しかし、被告住友ハウジングがその商号あるいは「住友」の標章を常に右マークとともに表示しているものではないことは明らかである(検甲一の1、2)し、同被告が原告らと異なるマークを使用していることによって、前記の混同のおそれが直ちに否定されるものではない。また、被告住友ハウジングの商号の選定の経緯・動機は、前記の混同のおそれを左右するものではない。

四  原告らの営業上の利益が侵害されるおそれの有無(差止の必要性)(争点4)について

1  前記第二、二3のとおり、被告住友ハウジングは、現に「住友」を冠した商号、「住友」の標章を使用しているところ、これらの使用により、同被告の営業上の施設又は活動が、原告らもしくは住友グループに属する会社の営業上の施設又は活動と混同されるおそれがあることは前記三1のとおりであるから、原告らの営業上の利益が侵害されるおそれも認められ、「株式会社住友ハウジング」その他の「住友」という文字を含む商号又は標章の使用禁止、別紙物件目録記載の各物件の「住友ビル」等の表示の抹消及び同被告の登記のうち商号の抹消登記手続請求等の差止の必要性も肯定できる。

2  被告管財人については、前記三2で述べたとおり、住友開発の商号登記が存し、また同被告が破産管財事務の遂行上、同被告名で破産財団に属する不動産等が処分されるとしても、原告ら又は住友グループに属する会社の営業と混同されるおそれがあるとは認められないから、原告らの営業上の利益が侵害される具体的なおそれも認められない。なお、破産宣告前において、住友開発が本件訴訟において被告住友ハウジングと同様に争っていたことから、将来、住友開発が、営業を再開する可能性について考慮するとしても、前記三2で述べたとおりその可能性は具体的なものとは認められないから、現時点で、被告管財人に対する住友開発の商号の抹消登記手続を求める差止請求の必要性を認めることはできない。

したがって、原告らの被告管財人に対する請求は、その余の点につき検討するまでもなく理由がない。

五  原告らの差止請求は権利の濫用に該当するか(争点5)について

前記第二、二4のとおり、原告らからの被告住友ハウジングに対する昭和六一年九月の商号等の使用中止を求める通告に対し、被告住友ハウジングがこれに応じられないと回答した後、原告住友不動産が再度被告住友ハウジングに対し通告をした平成六年三月まで、原告らにおいて、被告住友ハウジングに対し何らの措置も取らなかったことは当事者間に争いがないが、この事実のみをもって、原告らの被告住友ハウジングに対する差止請求権が長年の不行使により既に消滅したとか、同権利の行使が権利の濫用であるということはできないから、この点についての被告住友ハウジングの主張は理由がない。

六  結語

以上の次第であるから、原告らの被告住友ハウジングに対する不正競争防止法二条一項一号に基づく、「株式会社住友ハウジング」その他の「住友」という文字を含む商号又は標章の使用禁止、別紙物件目録一、二記載の各物件の「住友ビル」等の表示の抹消及び同被告の登記のうち商号の抹消登記手続を求める請求はいずれも理由があるから認容し、原告らの被告管財人に対する請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 松本利幸 裁判官本田敦子は転補のため、署名・押印することができない。 裁判長裁判官 井垣敏生)

物件目録

一 所在 京都市右京区西院平町二四番地、二〇番地、二三番地

家屋番号 二四番

種類 事務所、作業場、寄宿舎、娯楽室

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根四階建

床面積 一階 二七二・〇九平方メートル

二階 三〇八・四七平方メートル

三階 二六〇・八五平方メートル

四階 二六〇・八五平方メートル

二 所在 京都市中京区壬生神明町一番地二六〇

家屋番号

種類 事務所

構造 木造セメント瓦葺二階建

床面積 一階 三三・一六平方メートル

二階 三三・一六平方メートル

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